置
私は箸置きマニアだ。
そして、陶器に目がない。
ある時、ひょんなことから箸置きを知人にプレゼントすることになった。
プレゼントを贈ることは好きだ。
相手が自分では選びそうに無い、でも相手好みを考慮しつつ私にしか贈れない絶妙なラインの物を選ぶ。
相手のことを考え、自分のセンスと練り合わせる。
というわけで、作家市を見に行った時に、吟味し、大変わたし好みなものを購入した。
馴染みの作家の作った可笑しい制作エピソードを踏まえ、選んだ。
箸置き界においてのそこそこの斬新さと贈り物としてのセンスとバランスを持ち合わせていたと思う。
だが、今回は贈る相手が強者過ぎた。
私は、本当にこの箸置きで良いのか。
この箸置きをあの猛者に渡せるのか、あの猛者がこれを気に入るのかと決めかねて、もう一組、普段使いに最適な美しい飴色の箸置きを選んだ。
本来、箸置きなんてひとつあれば良い。
贈り物をもらう側にとっては選択しきれなかった二品は不要だ。
あろうことか、私はその二品を猛者に渡すことにした。
やれやれ。
猛者の本心は計り知れないが、私は今回決めたことがある。
贈り物選びにおいて、置きにいってはならない、箸置きだけに。お後がよろしいようで、オホホホホ
抜
「力を抜いてくださいね」
それができれば
もっと楽に生きられたはず
天井を見つめた
F
「私が好きな人間は、私のことなんか好きにならない」
私になんて見向きもしない人だからこそ、魅かれるのだと思う。
そして何度も何度も思う。
あなたが好きな人を呼ぶ声で私も名前を呼ばれたい。
そんなことを思い出させてくる夜。
そんなことを誘発する小説。
脳
人間の脳は、その者の見たいように見せ、聞きたいように聞かせ、感じたいように感じさせる。
私の見ている世界は私の望んだものか?
私の聞いている言葉は私の望んだものか?
私の感じているこれは私の望んだものか?
舞
彼女は装い方が殊の外、すごい。
くしゃみの仕方ひとつ、
食後の感想ひとつで、
いやになる程、装う。
その装いが板に着き、
まるで装っていないかのように振る舞うが、
その振る舞いが周りを遠ざける。
誰からも嫌われたくない
という祈りが痛いほど溢れている。
彼女は生まれて30数年、誰とも寝ていない。
誰かに抱かれる快楽を、
誰かに抱かれる物哀しさを知らない。
傷
人を想うことにおいて
誰かを傷つけること
誰かに傷つけられることは起こる。
どんなに心を配っていても
それは不慮の事故みたいなもんで。
それを恐れたり嫌がったりして
立ち尽くしてはいけない。
人は傷ついたって治る。
人の力で治せる。
桜
あの日見た桜を忘れない
なんて戯言で
私は忘れていく
変わっていく
でも
また桜の季節がやって来たら
何か思い出したような
でも思い出せない
このもどかしさを感じたい