美
東京タワーに会いに来たのだ。
地下鉄を降りて姿を見た途端、吸い寄せられるように、ふらふらと近づいた。
ファインダーを覗きながら、あまりの美しさに今見ているもの以上の写真なんて撮れないだろうと確信する。
かつての恋人と登ったことを思い出しつつ、一人エレベーターに乗る。
私は東京タワーに会いに来たのだ。
旅
私のことなんて誰も知らない
私もこの街のことなんて何も知らない
ずっと迷子で
ずっと不安なのに
この街は人だらけ
だからこそ
ここに来たかったんだと思う
窓
思い出を手繰り寄せ
記憶の糸を紡ぎながら
どこかへ立ち返ろうとしている
車窓の景色が変わるのを見ている
あの頃の気持ちはどこへ
恋
人を好きになるということ
不器用でも相手を思うこと
不器用でも相手のために動くこと
不器用でも前に進むこと
釣
私の住む町の近くには港がいくつかある。
港の辺りには工場がたくさんあって、私はそれを眺めるのが好きだ。
港には色んな人がいて、色んな時間の流れがある。
釣りをしている人がいた。
釣り糸を垂らして、魚がかかるのをじっと待つ。
腕組みをして、なんなら居眠りをして。
その光景を見て不思議なものだなと思う。
魚を手に入れる方法はいくつもある。
買い物に行くもひとつ。
釣り糸を垂らして魚がかかるのを待つもひとつ。
釣るにしても、疑似餌を使うか、撒き餌を使うか、活き餌を使うか。
船に乗り込んで魚を釣りに大海原に乗り出すもひとつ。
モリで突きに行くもひとつ。
網をほりこみ、引くというのもひとつ。
何かを手に入れるための手段はいくつもあって、それを選んでいるのはいつだって自分なのだとふと気付かされる。
私は何を手に入れたいのか、何を欲しているのか。
そのためにどの手段を選ぶのか。
適した方法は何なのか。
何をするにも私たちは試されているのだと思う。
誰になのか、は分からないけれど。
結局、小一時間、釣り人の後ろ姿を眺めていたけれど、釣れたのは小さなアジが二匹だった。