箱
捨てられない箱がある。
ただの段ボール箱。
数年前にかつての恋人からのクリスマスプレゼントが入っていた箱。
彼の丁寧な字で住所や名前が書かれていた箱。
私の手元に渡るまでの箱自体のエピソードがとても可愛かった箱。
その箱のエピソードの可愛らしさが彼の思い出のまばゆさのような気がして、大事にしたいと思っていた。
捨てようと思うたび、それを語る彼を思い出し、見るに耐えかね、押し入れの奥の方にそっとしまった。
その箱が今、枕元にある。
理解している。
これはただの段ボール箱で、この箱を置くことに何の意味もないことも。
この箱は彼ではなく、この箱に情も念もないこと。
ただ、納得していないだけなのだ。
終わったこと、と言い聞かせている。
もうすでに2年半も時が経った。
引きずっていないと思いたかった。
あの時の彼はもういない。
これはただの箱。
ただの空き箱。
もう終わったこと。